西九州新幹線は、2022年に武雄温泉〜長崎間が先行開業しましたが、
博多からの全線開通には、佐賀県内を通る新鳥栖〜武雄温泉間の整備方式を巡る合意が必要です。
この区間について佐賀県がフル規格での整備に慎重な姿勢を示しているのには、
主に**「費用負担」と「利便性」**という二つの大きな論点があります。
💰 佐賀県の立場:過大な財政負担と「メリットの薄さ」
佐賀県がフル規格の新幹線整備に同意しない最大の理由は、過大な経済的負担です。
- 巨額な建設費の地元負担: 整備新幹線のルールでは、建設費からJRからの貸付料を除いた額を
国が3分の2、沿線自治体が3分の1を負担することとされています。
フル規格で整備した場合、佐賀県の試算ではその実質負担額が数千億円に上る可能性があります。県の一般会計予算(歳入総額)に対する割合を考えると、
これは過重な負担であると主張しています。 - 薄い時間短縮効果: 佐賀県は、既に在来線の特急列車で福岡・博多都市圏に比較的短時間で
アクセスできるため、新幹線による時間短縮の恩恵が限定的であるとみています。
巨額の投資に見合う明確なメリットがない、という立場です。 - 並行在来線問題: 新幹線が開業すると、並行する在来線(長崎本線など)の経営が
JRから分離され、県や地元自治体が負担する第三セクター化、または廃線のリスクが生じます。
これは、通勤・通学で在来線特急を利用している佐賀県民の利便性を損なう、
新たな財政負担を生む、という懸念材料です。
佐賀県は元々、費用負担が小さく、在来線も活かせるフリーゲージトレイン(FGT)の導入に
合意していましたが、FGTの開発断念を受けてフル規格化に計画が変更されたことで、
「話が違う」として不信感を募らせています。
⚓ 長崎県の立場:「悲願」のフル規格化と経済効果への期待
一方の長崎県は、西九州新幹線の全線フル規格化を**「長年の悲願」**として強く求めています。
- 地域の経済活性化: 新幹線が全線開通することで、長崎への観光客増加や企業誘致、
交流人口の拡大といった経済効果を最大限に引き出せると期待しています。
特に、福岡や関西・山陽方面との移動時間が短縮されることによる効果は大きいとみています。 - 利便性の向上: 現状、武雄温泉駅で在来線特急から新幹線へ乗り換えが必要な
「対面乗り換え方式」は、利用者にとって大きな負担となっています。
フル規格化による直通運転は、この負担を解消し、長崎県民の生活の利便性向上に直結します。
⚖️ まとめ:歩み寄りが求められる「未合意区間」
佐賀県は「過大な負担に見合わない」、長崎県は「地域の発展に不可欠」と、
双方の主張にはそれぞれ合理性があります。国を交え、費用負担のあり方や、
並行在来線の具体的な維持策など、両県にとって納得のいく解決策を見出すための
継続的な協議が、地域の将来にとって重要な課題となっています。
<出典>
- 国土交通省「西九州新幹線(武雄温泉・長崎間)について」関連資料
- 佐賀県および長崎県の公式発表資料
- 各種報道機関による新幹線整備に関する報道(例:Merkmal、東洋経済オンラインなど)